大学を卒業してすぐの頃、たしか1992年くらいに入手した、1964年製、フェンダージャズベース。
俺より年上。
友人と何軒かヴィンテージ屋めぐりをして、吉祥寺のヴィンテージギターズで出会った一本。
当時は知識もなく、分不相応ながら、ただただひたすら何本も何本もウン十万もするヴィンテージをさんざん弾き倒した挙句に辿り着いた私のベターハーフ。ではなく彼女のベターハーフが俺だった。
初めて弾いた瞬間に、自分も友人も「これだ!」という確信を得た。
左手の指の力の入れ具合も、右手の指の力の入れ具合も、このベースは恐ろしい速さで音にする。
この反応の速さこそがヴィンテージのヴィンテージたる所以なのだと思う。ただ古いだけの個体や、丁寧に作られてれるけど新しい機体にはないこの感覚を人は「鳴り」と呼んでいる気がする。
EMGのピックアップのように、電気的に鳴りを増幅させ反応スピードをかせぐ機構は、きちんとヴィンテージを研究した結果であると理解できる。
ネックデイトは1964年11月7日。おそらくアルダー1ピース。ジグの穴埋め跡もある。なぜか通常よりも2mmほど薄いボディ。
往時のフェンダーは作る人による個体差が大きかったと聞くがホントにその通り。
今でこそ分析が進んでいますが、’60年代のジャズべと’70年代のジャズべではリアピックアップの位置が違うとか、ネックの根元のサイズが現行より1.5mm細いとか、ブラックボビンとグレイボビンがあるとか、当時まったく知識がないのによく買ったよなぁと、今になって思う。
このベースと、向き合えるだけ向き合った。自身の考える良い楽器とは、という哲学も持つことが出来た。

この’64は、板目のメイプルネック。今はコンディションがだいぶ落ち着いたけど、季節ごとに反りが出てしょっちゅう調整に出してました。
ハカランダの指板はラウンド貼り。音の立ち上がりはスラブ貼りより少し遅いけど、右手のピッキングの仕方によってタッチをコントロールすると、音が出てからもう一段クッと持ち上がる感じの独特のニュアンスが出せる。ボディからのフィードバックを拾う感じとでもいうか。これがラウンド貼りの特徴だと思う。
ボディはもともと3トーンサンバーストだったのを上からオーバーコートのラッカーの黒に塗り替えられてました。下地の赤や黄色が、剥げた塗装の縁から見て取れます。フルオリじゃないけど気にしない。
裏の塗装は、買ったときは1/4くらいしか剥がれていなかったのに、今は半分くらい剥がれてしまった。おかげで乾燥が進んで、シーズニングがすすんだエアードライアルダーに。ウェザーチェッキングもだいぶ進んで来ました。
ボディの鳴りは薄いブリッジに完全に伝わり、左手の指先からネックとボディの鳴りが伝わる感覚を初めて理解できました。
ピックアップはグレイボビン。過渡期の製品なので、ポジションマークがクレイではなくパーロイドになっていたり、サイドマークはクレイだったり。エレクトリックはCTSのポットに0.022μFの50Vセラミックコンデンサ。
ペグのギア比が大雑把なのでチューニングも一苦労。フェンダーのステンレス弦7350が廃盤になったので、また弦探しの旅にでる羽目に。
ピックアップフェンスを付けてスラップしまくりだった頃もあって、ずいぶん罰当たりなことしてたなと思いました。鼈甲のピックガードも何回か付け替えようと思いましたが、結局は買った時のまま。

ここ何年か、思うところがあって、アメリカでオーダーした材でベースを何本か組んでいます。
オーダーする際の哲学の根本には、この一本がある。
現代の技術で良い材と良いパーツで組んだ一本が、やがてヴィンテージの雰囲気をまとい、風格にも似た堂々としつつ枯れはじめたボディとネックの鳴りと出音が揃った時、この’64に、もしまだ音楽的な価値があるのなら、その時は後進のためにこのベースは手放そうかと考えています。
志のある若いベーシストに託せる日が来ることがあれば、それはそれで役割を果たせるのかもしれない。
買った時から、今でも、ホントは棺桶に一緒に入れともらおうかと思ってるんですが、最近ちょっと心変わり。
寄る年波には逆らわない。

