ギヴ・イット・ホワット・ユー・ガット/ハイラム・ブロック 1987年
1980年代ニューヨークサウンドの中心ギタリストは、ハイラム・ブロックだったと思う。ジャズアプローチはもちろん、ブルースやロックのテイストもこなし、おまけというか本職というか、歌もうまくて曲も良い。
1955年、米軍関係の両親のもと大阪生まれ。日本人としては親しみやすく、ライヴ・アンダー・ザ・スカイやマウント・フジから斑尾に至るまで、日本の真夏の夜のジャズフェスの常連だった。
野外ステージだけでは飽き足らず、サイドメンとして参加してるのに誰のステージでも観客席をギター弾きながら練り歩くというか飛び回るというか、そんなステージングスタイルは客を大いに魅了し湧き立たたせた。
ライブ当日の模様がオンエアされると、当時のジャズ研とかのサークルに入ってた人は野球中継の延長にピリピリしながらエアチェックしたものだった。
結果、録画したビデオを見直して客席を練り歩くハイラムに群がるジャズフュージョンキッズをチェックすると、大学を卒業し、その後のバンド人生を歩む中で出会うメンバーが皆それぞれ違う箇所で映り込んでいたりした。
若気の至りともいうが、良き思い出でもあり、その頃の音楽シーン全体や個人的な音楽に対する入れ込み具合とか、自分を構成する要素の非常に大事なピースだったギタリストと言える。
2008年に癌で他界。残念でならない。
今でもハイラムのアルバムはよく聴くほうだと思う。色気のあるヴォーカルと、ブルージーだったりロックっぽかったりジャズっぽかったり、リップスティックピックアップの特徴的な音色でありながら多彩な表現は唯一無二だと思う。
何より、ハイラムが作る曲は無駄なシニカルさがなく、かといって能天気でもなく、人生賛歌というと大げさだが、等身大で気張らないけど懐の深さとスケールを感じる曲とヴォーカルがマッチしていて、おまけに楽器オタクでも最後まで飽きずに楽しく聴ける抜群の良質なエンターテインメント。この安心感が秀逸だ。
ブルーノート東京のようなライヴハウスでも24丁目バンドのような大暴れで、料理の皿や飲み物のグラスが乗った客席のテーブルの上を盟友ウィル・リーとともにピョンピョン飛び跳ねながら、しかしいっさいプレイは乱れないという曲芸のような悪ノリステージを何度も観に行った。
サインももらったし、一緒に写真も撮ってもらったりと、ミーハー全開ではあったが、後にも先にもここまで心の底から楽しみにしていて、期待に違わず毎回毎回こんなに楽しく盛り上がるステージを他に見たことがない。
他のライヴハウスとかわからないが、たぶん、ブルーノート東京でこんな悪ノリして出禁にならず毎年のように出られたのはハイラムとウィル・リーだけ。映像作品として残ってるサンボーンのライヴでもサイドメンなのに悪ノリ(笑)。
このアルバムのラストに収録されている「アンジェリーナ」。
ハイラム・ブロックの名義で来日したステージでは、必ずハイライトとして演奏された美しいバラードナンバー。照れくさそうに、ほんのちょっとだけロマンチストなところが垣間見える、ハイラム・ブロックの名曲中の名曲。ジャズフュージョン史においても佳曲と言えると思う。
甘い色がついた過去。それは若い頃は絶望と隣り合わせな危険な誘惑だったので、あえて避けるようにしていたが、今はそんな甘い色がついた過去に想いを馳せながら聴いても良い気がしてきてる。
寄る年波には逆らわない。

